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気まぐれに、愛知機械工業の昔を紹介するページです

004 ・・・ 自動車用発動機、その2


前回に引き続きヂャイアント及びコニーのエンジンについて、当社の古い社内報から抜粋して紹介します。



今回はエンジンをシリーズ別に分類して説明を進めます。
なるほど、ボア(シリンダー直径)やストローク(ピストンの移動量)で分類すると分りやすいですね。
単気筒で出発してわずか10年後には水平対向4気筒に発展し、その後軽自動車に載せるべくシンプルな空冷エンジンへと大変身。元航空機メーカーらしくアルミを多用して軽量化を図ったり、動弁機構の騒音防止にあの手この手を考えたりと、当時の苦労がしのばれます。


■ 自動車用エンジン、シリーズ別解説
90ボアシリーズ(AE4、5系統)
先代ヂャイアントが生産していた初期のエンジンは、水冷頭上弁式V型2気筒744cc(71φ×94ミリ)でしたが、生産コスト等の理由で単気筒650cc(91φ×100ミリ)となりました。当社が受け継いだエンジンは、この単気筒のもので、ボアをピストンリングの標準サイズである90φとした他、小改造を施し636ccのAE4型として出発したのです。このエンジンがヂャイアント、コニーを通じて当社の自動車用エンジンの原型となったもので、これを改良したのがAE14であります (写真AE4、写真AE14および表7参照)。表の3段書きの最下段は搭載した車種を現し、左肩の年は生産を初めた年を示します。

AE4、14共にドライサンプ式で、AE4は排気口が2個あって前から排気管がひげのように左右に出ているのに対し、AE14は単排気口で、排気管も1本になりました。またAE4ではパルブ・スプリングが丸見えでしたが、AE14ではシリンダヘッド・カバーで密閉されました。AE4から出発して水平対向2気筒エンジンのAE5が開発されましたが、これが当社伝統の床下装備水平対向エンジンの母体となったもので、これに改良を施されたものがAE15です (写真AE5、写真AE15および表7参照)。

なお昭和33年になって生産されたAE25は、AE15のポアを80φに縮めただけで部品もAE15のものを多く使用していますので、90ポアシリーズに入れておきました。AE5、15、25は前に述べたゼロラッシュ・アイドルギヤや緩衝タペットなどを採用しています。この系統は勿論OHVですが、ローラー・ベアリングを使用、組立式のクランクシャフトを採用しています。

AE14、AE15の写真をもう一度ご覧下さい。これ等のエンジンのシリンダ廻りには赤いペンキで鉢巻状に塗装したところがあります。これは戦前のヂャイアントのエンジンでは赤色の感温塗料(温度で色が変わる塗料)が塗ってあって、水が欠乏してエンジンがオーバー・ヒートするとこの色が変わって危急を知らせ、水を入れて常態に復すると元の色になるカメレオンのようなものでしたが、当社になってから戦後の混乱期にその塗料が高価で入手困難な事情から、スタイルだけ残して赤ペンキを塗ったわけです。

表7 90ボアシリーズ
昭和22年 昭和26年
AE4(90φ×100) 改 良 AE14(90φ×100)
直立水冷単気筒 直立水冷単気筒
636cc 16ps/3200 636cc 19ps/3600
AA1、AA2、AA3、消防車 AA3、AA6、消防車
昭和26年 昭和29年
AE5(90φ×90-2) 改 良 AE15(90φ×90-2)
水平対向2気筒 水平対向2気筒
1145cc 41ps/4000 1145cc 41ps/4000
AA7、消防車 AA11、AA14、消防車
昭和33年
AE25(80φ×90-2)
水平対向2気筒
905cc 36ps/4200
AA26、AA28用
AE4
↑AE4
AE14
↑AE14
AE5
↑AE5
AE15
↑AE15



80ボアシリーズ(AE16、34)
前に述べましたAE14エンジンを搭載したバー・ハンドルの3輪車AA6型の後継車用エンジンとして開発されたのがAE16で直立2気筒の形をとっていました (写真および表8参照)。
このエンジンは特に特徴はありませんでしたが、案外好評でした。写真にある小柄な直2エンジンは、後述のAE17(525cc)水平対向2気筒エンジンと競作の形で試作された、同じ500ccクラスのエンジンXAE24ですが、結局日の目を見ずに終ったものであります。
AE16、24
↑AE16(左)、XAE24(右)、

AE16のストロークを74ミリに縮めて水平対向4気筒にしたのがAE34エンジンで、AA24スーパー・フォアシリーズに搭載されたものであります (写真AE34および表8参照)。
3輪車の4気筒化は、当時のくろがねと共に、当社のスーパー・フォアが最も早く、昭和33年のモーターショーに初登場しましたが、36年までには、それ以外の会社の3輪車にも4気筒エンジンが搭載されました。80ボアシリーズは、前の系統と異なり平軸受を採用し、クランクシャフトも一体式ですが、AE16が鋳鉄に対してAE34はアルミ合金鋳物で、潤滑は共にオイルパン式です。なお、このシリーズでは動弁機構の騒音防止にベークライト・カムギヤが使用されています。

表8 80ボアシリーズ
昭和29年 昭和32年
AE16(80φ×85-2) ストローク74、 AE34(80φ×74-4)
直立2気筒 4気筒化 水平対向4気筒
855cc 28ps/4200 1488cc 58ps/4500
AA13用 AA24用
AE34
↑AE34



68ストロークシリーズ(AE17、27、57系統)
このシリーズの母体であるAE17型エンジンは、前述90ボアシリーズの水平対向エンジンの技術と、80ボアシリーズの平軸受、一体型クランクシャフトの技術とをそれぞれ受け継いで製作されたものです。

総排気量は僅か524ccで25馬力を出し、リッター当り48馬力といった当時としては画期的なものでありましたが、高速回転(最高5500回転)に対してPRが不足していたこととパワー・アップの必要からボアを75φにしたAE27に移行しました。AE17、27ではゼロラッシュ・アイドルギヤ、緩衝タペットが使用され、クランクケースはアルミニウム合金鋳物です (写真AE17および表9参照)。

AE37は、AE27を空冷化したもので、当社で最初の空冷自動車用エンジンでした。これにも緩衝タペットが採用されましたが、動弁機構にはベークライト・カムギヤが使用されています (写真AE37および表9参照)。このエンジンは、AF5コニー600に搭載されましたが、これより前、昭和32~33年に試作されて37年に正式化した防衛庁の61式特殊運搬車に使用されて活躍しました(写真RZ特殊運搬車)。

写真RZ特殊運搬車はその試作1号車で、床下にシリンダーヘッド・カバー、エア・クリーナー、マフラー等が見えてます。AE37から、軽自動車用360ccクラスのロング・ストロークエンジンAE57が生まれました(表9参照)。もっともマスプロ化されたのはAE57が先ですから、AE57からAE37に移った技術もあります。これは緩衝タペットは使われていませんが、ベークライト・カムギヤを採用しています。また、AE37、57共に鋳鉄製のクランクケースになりました。このシリーズは、全て平軸受、一体型クランクシャフトでオイルパン式です。AE27は消防ポンプ用に、AE37を転用したAE48は定置用エンジンにも利用されています。
AE17
↑AE17
AE37
↑AE37
RZ特殊運搬車
↑RZ特殊運搬車
 
表9 68ストロークシリーズ
昭和30年 昭和31年
AE17(70φ×68-2) ボア75φ化 AE27(75φ×68-2)
水平対向水冷2気筒 水平対向水冷2気筒
524cc 25ps/5500 600cc 26ps/4800
AA15用 AA15FA、AA25、ポンプ用

昭和32年 昭和34年
AE37(75φ×68-2) ボア58φ化 AE57(58φ×68-2)
水平対向空冷2気筒 水平対向空冷2気筒
600cc 25ps/5250 359cc 15.6ps/4800
RZ、AF5(昭和35年)用 AA27、AF3用
AE48(75φ×68-2)
水平対向空冷2気筒
600cc 13ps/3500
定置用エンジン



64ボアシリーズ(AE58、59系統)
さきにAF3コニー360に塔載されたロングストロークのAE57に代るものとして開発されて軽量化され、性能を向上したのがこのAE58エンジンで、ボア64、ストローク55のオーバー・スクエアエンジンであります (写真AE58および表10参照)。
主軸受けはボールベアリング、コンロッド大端部は二ードルベアリング入りの組立式クランクシャフトで、またドライサンプ式となりました。最初、動弁機構にべークライトのカムギヤを使用していましたが、後でゼロラッシュ・カムギヤとなりました。このエンジンはAF3の後期からAF7にかけてと、AF6Vコニーコーチにも使用され、当社で最も生産数をあげました。このAE58空冷エンジンを水冷にしたのがAE59で、これは可搬式消防ポンプに使用されています。
AE58
↑AE58

表10 64ボアシリーズ
昭和36年 昭和37年
AE58(64φ×55) 水冷化 AE59(64φ×55)
水平対向空冷2気筒 水平対向水冷2気筒
354cc 18.6PS/5500 354cc 20PS/6000
AF7シリーズ 消防ポンプ用



2サイクルエンジン(AE20、82系統)
昭和28年に、当時の日米富士自転車株式会社のフジモーターバイク(写真フジモーターバイク)用エンジンが生産されましたが、これは当社で初めて生産された2サイクルエンジンであります (写真2サイクルエンジンおよび表11参照)。

即ちAE20と云って60ccの単気筒で空冷2サイクル、2.3PS(5500回転)のものですが、これは一年位つづいて終りになりました。その後、2サイクルは暫く手掛けませんでしたが、グッピーが計画された時に再び採り上げられて、199ccの空冷エンジンとしてAF8グッピーに搭載されました(写真199cc 空冷エンジンおよび表11参照)。

表11 2サイクルエンジン
昭和28年 昭和36年
AE20(40φ×47) AE82(65φ×60)
直立空冷単気筒 直立空冷単気筒
59cc 2.6PS/5500 199cc 11PS/6000
モーターサイクル用 AF8用


尚、図15は、そのシリンダまわりの構造図で4サイクルのそれと比較して動弁機構が簡単である事が判ります。それで、一つの会社で4サイクルと2サイクルのエンジンをやりますと宣伝の時に、一方のエンジンの特徴を強調しますと他方エンジンをけなす事となり、一寸始末が悪くなります。これは、水冷対空冷でも同じ事が云えますが、参考のため4サイクルと2サイクルの利害得失を客観的に簡単に書きますと表12の如くなります。これのそれぞれの利点を伸ばし、欠点を少なくしてユーザーの納得のいくエンジンにする必要があります。
フジモーターバイク
↑フジモーターバイク
2サイクルエンジン
↑2サイクルエンジン
199cc 空冷エンジン
↑199cc 空冷エンジン
図15
表12 ↑図15
項 目 4サイクル 2サイクル
吸排気
有効圧力、圧縮比
オイル消費
低速、低速の加速
過熱、熱応力
機械応力
始動
有利 (吸気、排気、圧縮、確実)
 〃 (高くとれる)
 〃 (小で潤滑十分)
 〃 (静かでスローがきく加速良)
 〃 (2回転で1回の爆発)
 〃 (上に同じ)
 〃 (良好)
不利 (吸排気不充分ブローパイあり)
 〃 (高くとれない)
 〃 (大、潤滑不充分但し大分よくなる)
 〃 (スロー高い、加速不良)
 〃 (毎回転爆発)
 〃 (上に同じ)
 〃 (不良)
出力
動弁機構
潤滑系統
取付
重量
価格
排気温度
不利 (サイクル的に不利)
 〃 (複雑)
 〃 (必要、オイルポンプパイプ等)
 〃 (ある程度制限される)
 〃 (やヽ重い、部品多い)
 〃 (やヽ高い)
 〃 (高い)
有利 (サイクル的に有利)
 〃 (動弁機構なし)
 〃 (なし、但し最近オイルマチックとなる)
 〃 (倒立でも横でもOK)
 〃 (やヽ軽い、部品少ない)
 〃 (やヽ低い)
 〃 (低い、但しオイルで汚れる)



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